2020年6月22日(月)大阪大学女子大学院生優秀研究賞の表彰式が執り行われました
本学では、自然科学系研究科に所属し優れた研究成果を挙げた女子大学院生を表彰することにより、その研究意欲を高め、もって将来の学術研究を担う優秀な女性研究者の育成とこれによる本学のダイバーシティ推進等に資するため、大阪大学女子大学院生優秀研究賞を創設いたしました。
研究者をめざす女子学生、とりわけSTEM分野を専攻する女子学生が少ないことは国際的課題であり、その育成は急務です。本賞は優秀な女子大学院生が博士後期課程進学及び将来的に研究者を志すことの後押しとなるよう、本学名誉教授・元工学研究科長 豊田政男先生からの大阪大学未来基金「女性活躍支援事業」へのご寄付により創設されました。
この記念すべき第1回目の表彰式が、去る6月22日(月)に大阪大学コンベンションセンターMOホールにて執り行われ、西尾総長からお祝いの言葉が述べられた後、本賞を受賞した11名の女子大学院生に表彰状と副賞の目録が手渡されました。
続いて、工学研究科の江端木環さんより受賞者代表の挨拶を行いました。女性研究者が少ない中、この受賞によって自身の研究に自信を持つことができ、一層邁進し女子大学院生のロールモデルとして後輩に伝えていきたいという決意を述べました。
最後に、この賞の創設にご尽力をいただいた豊田政男先生より、受賞者に向けて、お祝いと今後の期待の言葉が述べられました。
◆西尾総長からのメッセージ
女子大学院生優秀研究賞を受賞された皆さんに心よりお祝い申し上げます。誠におめでとうございます。
この賞は、優秀な女子大学院生が、博士後期課程への進学や、将来的に研究者を目指すことを力強く後押ししたく創設したものです。このたび皆さんは、ご自身の優れた研究成果を高く評価され、所属研究科長より推薦を受け、さらに厳正な審査のうえで受賞が決定いたしました。本日、皆さんとこうやって直接お会いしますと、将来の学術研究を担ってくださることを確信し、大変頼もしく感じております。
残念ながら、我が国の女性研究者割合は、世界的に見て非常に低い状況にあります。私は総長就任の翌年の2016年に、大阪大学男女協働推進宣言を公表しました。この宣言では、男女協働社会を牽引し、新たな社会的価値の創成に貢献する女性リーダーを育成することを誓いました。この宣言の下、女性研究者が研究と自らの生活を両立し、さらに研究力の向上ができる環境の整備にこれまで懸命に取り組んで参りました。
その結果、本学の女性研究者割合は向上し、20パーセントを超えることになりましたが、まだまだ女性研究者がマイノリティである状況には変わりはありません。
私が女性研究者割合の向上にこだわる理由、それはダイバーシティがイノベーションを創出すると固く信じているからです。性別、国籍、障がいや性的指向等に関わらず、多様な構成員の個性が尊重され、自由で対等に活躍できる学びの環境、研究環境、就業環境を実現することが、一人ひとりが輝ける明日の大阪大学、日本、そして世界のために不可欠です。とりわけ性別、ジェンダー・ダイバーシティはダイバーシティの要です。
大阪大学は現在、全国にダイバーシティネットワークを構築する取組みを行っており、新しい時代を皆さんとともに作っていきたいと考えています。ますます研究活動に励まれ、後輩たちのロールモデルになってくださることを期待しています。
なお、今回の女子大学院生優秀研究賞は、本学のダイバーシティ向上の活動に日頃多大にご尽力をいただいております、大阪大学名誉教授・元工学研究科長 豊田政男先生のご厚情により実現しております。そのことに深甚なる感謝を申し上げ、あわせて皆さんの今後ますますのご活躍をお祈りして、私からの挨拶といたします。
改めまして、本日は誠におめでとうございます。
◆豊田名誉教授からのメッセージ
「秘する花」を持つ皆様への期待のメッセージ
女子大学院生優秀研究賞を受賞されました皆様にお祝い申し上げます。
本賞の企画に関係しましたものとしてお祝いのご挨拶をさせていただきます。この賞は,大阪大学の理系の博士課程に進学された,前途有望な女子学生の皆様を表彰しようとするものです。その背景には,我が国では,理系の博士課程への女子学生の進学率が少なく,ある意味,我が国では今後育つに違いない優秀な研究人材を失うことになっているのではないかと考えています。そこで,一つの「きっかけ」を生み出すという意味で,このような賞を大阪大学に設けていただきました。
本日受賞されました皆様は,優秀な成績で修士課程などを修了され,博士課程に進学された皆様ですが,この賞は,これまでの皆様の業績のみを評価するというよりは,今後博士課程で,理系の研究者として活躍していただける大いなる可能性を持っておられる意識高い方々であるとの認識です。そうです,本賞は,皆様への「期待」を表すものなのです。
ご承知のように,我が国の女性研究者割合は16%程度で,世界の国々の比較しても,ダントツの低率となっています。これには色々な背景もありますが,四の五の言っている場合でなく,失っているものが多いと認識すべきです。特に,我が国では上位職の女性比率が少ないのが実体です。
そうです,本日受賞されました皆様は期待されているのです。博士課程を修了して学位を得ることはもとより,我が国の理系研究を先導するような役割を担って頂き,誰にも負けることのない知で,世阿弥が言っています「秘する花」を築くと共に,後進を導く指導的役割を果たしていただきたいことを「冀求」いたします。
大いなる活躍を期待しつつ,お祝いの言葉とさせていただきます。
大阪大学 名誉教授・特任教授 豊田 政男
◆2019年度 『大阪大学女子大学院生優秀研究賞』受賞者の声
氏名 | 所属 | 学年 |
研究課題名 | ||
近藤 依央菜 | 理学研究科 宇宙地球科学専攻 | 博士前期課程2年 |
低質量星に付随する巨大ガス惑星の発見 | ||
このたび、栄誉ある賞を賜り大変光栄に感じております。推薦及び選出してくださった関係者の皆様に感謝申し上げます。また、素晴らしい研究環境や経験、ご指導を賜りました住貴宏教授、多くの助言を賜りました芝井広教授、松尾太郎助教授、D. Bennett氏、日頃から議論をしてくださる研究室の皆様を始め、多くの方々にお世話になりました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。 今回私は重力マイクロレンズ法という手法を用いて、低質量の星周りに存在するガス惑星を発見しました。この手法は太陽系外にある惑星を発見する手法の一つで、主星から遠く離れた惑星にまで感度があり、他の系外惑星探査手法と相補的な異なる特徴を持つ惑星を見つけることができます。また、今回発見したような惑星系は現在の標準的な惑星形成理論では形成が困難だとされているため、今後惑星形成理論に観測的な制限を与えるために重要な惑星系だと考えられます。 今回の受賞を励みとし、より一層研究に邁進する所存です。今後ともご指導・ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。 |
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楠瀨 ひなの | 理学研究科 化学専攻 | 博士前期課程2年 |
⼩分子活性化を指向したバナドセンビスアミド鉄およびコバルト錯体の合成と還元反応 | ||
このたびは名誉ある賞をいただき、大変光栄に存じます。評価してくださいました諸先生方に、この場をお借りして、心より感謝申し上げます。 私は、第一遷移系列元素を有する多核錯体を用いて窒素分子変換反応の研究を行っています。これまでに、独自のバナドセン配位子を導入した鉄およびコバルト錯体をそれぞれ合成し、さらに還元剤を作用させることで、窒素分子を捕捉、二電子還元した錯体が得られることを見出しています。今後は得られた反応を足がかりに窒素分子の修飾反応に取り組み、新たな窒素分子変換法の開発や、天然が行っている窒素固定の機構解明を目指したいと考えています。今回の受賞を励みにして、より一層、研究活動に邁進してまいりたいと存じます。 最後になりますが、本研究を進めるにあたり、ご指導ご助言いただきました教員の方々に改めて厚く御礼申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。 |
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⼩玉 伽那 | 医学系研究科 医科学専攻 | 修士課程2年 |
訪問看護記録システムの開発 | ||
この度は、このような素晴らしい賞をいただき、大変嬉しく、光栄に思います。 私は、訪問看護記録システムがどのような機能を持っていれば、病院との情報共有や研究のためのデータ蓄積を円滑に進めることができるのかを研究しています。 近年、病院の入院期間は短くなり、在宅医療への移行が推進されています。それに伴って、病院で看護師が行っていた、患者サポートや患者教育を入院期間中に実施するのが難しくなってきました。これからは、病院での看護を訪問看護で引き継ぎ、継続して看護サービスを受けることができる体制を整えていく必要があると思います。 この体制づくりに貢献できるよう、今回の受賞を励みに益々頑張っていきたいと思います。 最後になりますが、いつも熱心に指導やアドバイスをしてくださる先生方、研究室の方々、訪問診療や訪問看護の現場の方々に心から感謝申し上げます。今後ともよろしくお願いいたします。 |
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永安 真弓 | 医学系研究科 保健学専攻 | 博士前期課程2年 |
大阪府地域がん登録と人⼝動態統計を用いた乳がん罹患者の罹患年齢別死因の特徴に関する研究 | ||
この度は、大阪大学女子大学院生優秀研究賞を頂戴し大変光栄に思います。博士前期課程では、大阪府地域がん登録と人口動態統計の情報から、乳がんの罹患年齢と死因についての疫学研究を行ってきました。乳がんは女性のがんの中で最も罹患者数が多く、罹患年齢も若年から高齢者まで幅が広いという特徴があります。また、5年生存率が90%以上と非常に高い一方、亡くなる方の割合が罹患から5年以上経過してもあまり低下しない傾向があります。そこで、罹患年齢と死因に着目し、罹患年齢が若い人では乳がん死が多く、高齢になるにつれて乳がん以外の死因が多くなっていくことがわかりました。 病院で長く臨床看護師として働いていた私が、研究という分野でこのような評価をいただけたのは、大学院への入学以来、大野ゆう子先生はじめ諸先輩方に暖かく丁寧にご指導をいただけたお陰です。また、このような素晴らしい賞の機会をいただき、誠に感謝申し上げます。 |
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山本 彩葉 | 薬学研究科 創成薬学専攻 | 博士前期課程2年 |
新規慢性腎臓病(CKD)治療法開発を目指した転写因子OASISによる腎線維化制御機構の解明 | ||
この度、「新規慢性腎臓病(CKD)治療法開発を目指した転写因子OASISによる腎線維化制御機構の解明」という研究で大阪大学女子大学院生優秀研究賞を拝受いたしました。このような素晴らしい賞を賜り大変光栄に存じます。 CKDは新たな国民病ともいわれており、その治療法の開発が強く求められています。本研究課題では、CKD病態の特徴の一つである腎線維化に焦点を当て、新たな腎線維化制御因子の探索を行いました。その結果、腎臓における機能が未知である転写因子OASISが、筋線維芽細胞の増殖や遊走を制御し、腎線維化促進的に働くことを見出しました。今後もさらなる研究を重ね、新規CKD治療法の開発に貢献できるよう精進してまいります。 最後になりましたが、本研究を遂行するにあたりご指導賜りました尾花理徳先生、藤尾慈先生をはじめとした臨床薬効解析学分野の皆様、またご助力賜りました共同研究者の皆様と、学生生活を支えてくれた家族に心より感謝申し上げます。 |
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山口 祐希 | 工学研究科 生命先端工学専攻 | 博士前期課程2年 |
水素/重水素交換質量分析による抗体分子と免疫細胞受容体の相互作用解析 | ||
この度は、優秀研究賞をいただき、大変有り難く、光栄に思っております。 抗体分子は、がんなどの治療において高い効果が認められています。抗体は、がん細胞などの標的に結合した後、免疫細胞表面の受容体と相互作用することによって、その標的分子を破壊する効果を引き起こすことが知られていますが、抗体と免疫細胞の受容体との結合部位は、これまで完全には解明されていませんでした。本研究では、水素/重水素交換質量分析法を用いて抗体と受容体との結合部位の同定を行い、先行研究で同定されていた結合部位に加えて、新たな結合部位を発見しました。本研究結果は、がん細胞の殺傷効果の高い抗体医薬品の開発につなげるものであると考えています。 本研究の遂行にあたりご協力いただきました、所属研究室および共同研究先の先生方、研究者の皆様に感謝を申し上げます。この賞を励みに、今後も研究者として成長できるよう日々努力していきたいと思います。 |
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FAN Shuya | 工学研究科 応用化学専攻 | 博士前期課程2年 |
DNA内電子移動速度の1分子測定 | ||
修士から開始した本研究は、生体高分子であるDNA内の電子移動速度の1分子測定に関する基礎研究です。様々なDNAの情報、例えば、DNAの配列、塩基の変異、損傷を1分子のDNAから調べることができます。生物学の研究を推進するための強力なツールとして、また、ごく微量診断や分析法の基盤技術として役立つことを目指しています。一例として、現在RNA/DNA二本鎖の1分子測定によって、癌の変異をPCRなどの増幅を経ずに短時間で診断する技術開発に取り組んでいます。この度、大阪大学女子大学院生優秀研究賞を受賞できとても光栄と思っています。大阪大学での修士課程の2年間の間に、専門に関する知識を学ぶことだけでなく、研究への興味が育まれ、博士後期課程に進学して研究を続けたいと思うようになりました。この賞をいただけたのは、この二年間の努力によるものと思っております。本受賞に恥じないよう、さらに研究に励み、良い研究者になれるように努力して参りたいと思います。 | ||
江端 木環 | 工学研究科 地球総合工学専攻 | 博士前期課程2年 |
ガーナ・アクラの非正規市街地における住民主体の地域環境改善に関する研究 | ||
この度はこのような素晴らしい賞を頂戴し、大変光栄に思っております。日頃からご指導頂いています、木多道宏教授、セス・オチェレ先生、下田元毅助教をはじめ、研究室の先輩方が蓄積されてきた研究成果あってのことであり、心より感謝申し上げます。 アフリカにおいて「非正規市街地」は、解決すべき深刻な課題です。このような地区は「非正規」というレッテルにより政府・行政からインフラ・サービス提供の枠外とされ、住・衛生環境に様々な問題を抱えていることが多いです。本研究では、非正規市街地の「改善的整備手法」の確立を目標とし、政府・行政に頼らず土着コミュニティを中心に住民主体で住環境の改善整備や維持管理などを行ってきたガーナ・アクラの非正規市街地であるアベセ地区に着目し、地域マネジメントの仕組みを明らかにしました。「非正規市街地」にある様々な問題の改善に対する解決策を探ると同時に、 否定的に捉えられる「非正規性」に焦点をあて、地域の要素をつぶさに捉えることで、自律的な地域更新のあり方への手がかりを見出したいと考えています。 今回の受賞を励みに、より一層研究活動に注力し、引き続き精進して参りたいと思います。 |
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⻄岡 季穂 | 基礎工学研究科 物質創成専攻 | 博士前期課程2年 |
正極表⾯反応機構の差異がリチウム酸素⼆次電池の特性に及ぼす影響 | ||
私はこれまでリチウム酸素二次電池の研究に取り組んできました。リチウム酸素電池は現在広く普及しているリチウムイオン電池の5 倍以上の理論容量を有することから「究極の次世代二次電池」と称されており、実用化が期待されています。しかし、その実用化に向けては放電時・充電時共に克服すべき多くの課題が残されています。このような課題の本質的な要因を解消するために、これまで私は電池内の基本的な化学現象を正しく理解することを目的に研究を進めてきました。 研究活動を進める中で、今回はこのような賞を受賞することができ大変光栄に思います。また、私が進学するタイミングで幸運にもこのような賞が創設され、尚且つ受賞者にも選んでいただけたことは、一抹の不安を抱えながらこの進路を選択した私を勇気づけてくれました。まだまだ未熟ではありますが、環境やエネルギーに貢献できる研究者を目指して今後も邁進していきたいと思います。 |
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高木 詩織 | 情報科学研究科 情報ネットワーク学専攻 | 博士前期課程2年 |
Core/Periphery構造に基づく柔軟なサービス提供を実現するネットワーク設計 | ||
このたびは、大阪大学女子大学院生優秀研究賞を頂戴しまして、誠にありがとうございます。自分がこれまで研究に励んできた結果が認められたことを大変嬉しく思います。 私は現在、環境の変化に柔軟に適応できるネットワークサービスを実現するためのネットワーク設計に関する研究に取り組んでいます。第5世代移動通信システム(5G)の標準化が進み、複合現実感を用いたテレイグジスタンスサービスなど、5Gを前提とした多くの新しいサービスが誕生しています。これらの新しいサービスを運用する新しい情報処理基盤として、生物がもつ柔軟で効率的な情報処理機構であるCore/Periphery構造を活用したネットワーク設計手法を検討し、現在および将来にわたる様々な環境の変化に適応できるネットワークサービスの実現を目指しています。 今回いただいた賞を励みに、革新的な技術を生み出せる研究者を目指し、今後も研究に邁進したいと思います。 |
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DHIRA |
生命機能研究科 生命機能専攻 | 5年一貫制 博士課程2年次 |
Transcriptional and secretory regulation of VPA1376 of Vibrio parahaemolyticus | ||
My research topic is about the investigation of mechanism underlying Vibrio parahaemolyticus pathogenesis. V. parahaemolyticus is a bacterium associated with gastroenteritis in human body due to the consumption of raw or undercooked seafood. Whole-genome sequencing of V. parahaemolyticus revealed that the type III secretion system T3SS2, which is encoded in a pathogenicity island called Vp- PAI, is essential for pathogenicity. However, the precise mechanism of action of T3SS2 remains unknown since there are many functionally uncharacterized genes in Vp-PAI. One of the uncharacterized genes in the Vp-PAI region, namely vpa1376, is the gene candidate encoding a mucinase protein that takes part in colonization of mucosal surface in the digestive tract. The aim of my research is to determine the role of vpa1376 to the pathogenicity of V. parahaemolyticus. I am very pleased and honored to join other recipients in receiving this excellent female researcher prize. I am sincerely grateful to the Center of Gender Equality Promotion board for selecting me as one of the winners and to my supervisor, Prof. Tetsuya Iida, for the generous recommendation. I would also like to thank my research and course supervisors, Prof. Toshio Kodama and Prof. Toshie Kai, for their compassionate guidance, to the members of the Department of Bacterial Infections for their kind support, and to the Taniguchi Scholarship program provided by Research Institute for Microbial Diseases, Osaka University. This prize will strongly encourage me to improve my research and continue pursuing my dream to be a better researcher who could contribute to my field of study and society. |