2021年10月5日(火)13時30分~16時35分、オンラインにて標記シンポジウムを実施し、328名の方にご聴講いただきました。
本シンポジウムは、2016年度より、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、ダイキン工業株式会社を共同実施機関として開始した本事業(ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型))の6年間を振り返る総括として実施しました。ダイバーシティについて高い見識をもたれる2名を講師としてお迎えしての基調講演、産学官連携で行った本事業の取組成果の発表等を行いました。
1.来賓挨拶
氷見谷 直紀 文部科学省 科学技術・学術政策局 科学技術・学術総括官
相澤 益男 国立研究開発法人科学技術振興機構 顧問・運営統括
東京工業大学 名誉教授・元学長
事業最終年度を迎えて、総長のリーダーシップのもと、当初目標以上のことが達成され、蓄積した知見・ノウハウの本シンポジウムでの共有を契機に、今後更に女性活躍推進の取組を充実されることを期待します、と述べられました。
氷見谷氏 | 相澤氏 |
2.基調講演
①「目指せ未来へ(プロアシストの多様性)」
生駒 京子 株式会社プロアシスト代表取締役社長、
一般社団法人関西経済同友会代表幹事
創業以来、年齢、性別、国籍問わず採用を進めてこられ、女性管理職比率はすでに25%、会社全体での女性社員の割合は30%を達成しています。
多様な人材が共に働くための取組として、価値観を共有、相互理解を促進する「場」の提供や、復職した女性社員だけでなく周囲のメンバーに働きかける等、具体的な事例を紹介されました。
日本はデジタル革命に後れを取っていますが、各産業領域での垂直型のプラットフォームが鍵となっており、大阪大学データビリティフロンティア機構等の取組を加速していくべきと提言されました。
また、経営目線としては、マーケットインの徹底と、枠を超えた企業間連携・チーム組織力が求められています。グローバル人材を確保し育成する等、ダイバーシティをさらに促進し、新しい技術や既存の枠組みを覆す斬新な発想を速やかに実証・実現できる社会の構築が大切と述べられました。
生駒氏 |
②「ダイバーシティこそ力の源泉
SDGsを枠組みに,誰一人取り残されない社会の実現を」
根本 かおる 国連広報センター所長
ジェンダー平等の推進は、日本社会がグローバルな競争で生き抜くための非常に重要な要素。人口の半数は女性なのに、その能力が生かされないのは本当にもったいない、と話されました。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のネパール事務所でのインターンシップの経験を機に、国連で活躍しておられる根本氏。支援の場では、女性だからこそ活躍できることもたくさんあり、人の2,3倍働かなければ男性と同じ評価が得られなかった日本社会とのギャップを語られました。
また、国連が提唱するSDGsは「誰一人取り残さない社会の実現」を理念としていますが、昨年からのコロナ禍で、より一層社会のひずみが明るみになり、持続可能な仕組みへの転換の必要性が認知されるようになりました。
国連は、トップ自らが、1年で高官を男女同数にする、と明言し、それが実現されています。国連のジェンダー平等推進のための取組として、独自に17の評価指標を定めて、各局が毎年通信簿を公表する、との事例も紹介されました。
※参考:United Nations System-Wide Action Plan on Gender Equality and the Empowerment of Women(UN-SWAP):ジェンダー平等の視点にたち、国連システムの組織内の体制および意識改革を促進するための2020年の調査結果 ⇒こちら
根本氏 |
3.事業実施機関からの発表~実績と今後の展開~
西尾 章治郎 国立大学法人大阪大学 総長
米田 悦啓 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長
竹中 直文 ダイキン工業株式会社 専務執行役員
事業代表機関の大阪大学、共同実施機関の国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、ダイキン工業株式会社は、産学官共創を軸にした女性研究者に多様かつ発展的なキャリアパスを提供する循環型育成に取り組んできました。
具体的には、女性研究者の上位職への積極的な登用、大阪大学と相互型のクロスアポイントメントの実施、女性リーダー育成のための研修の実施や、企業の社員と学生が共にリーダーシップを学ぶプログラム等、新たなプログラムの提案も含めて、多岐にわたる取組を推進してきました。
結果、自然科学系分野の女性研究者比率、上位職の女性比率が向上し、研究力の向上につながるとともに、取組に参加した女性研究者が、業績として目に見えた成果を挙げています。
今後は、企業・研究機関・大学の連携による多様性推進の新たな枠組みを創出し、産学連携人材育成プログラムをさらに深化させるとともに、関西から世界へ繋げるダイバーシティ研究環境の実現に貢献したいとの決意を表明しました。
西尾総長 | 米田氏 | 竹中氏 |
4.事例発表~循環型育成による好事例
各取組に参加された皆様にご発表いただき、上司・関係者の皆様にコメントをいただきました。
①クロスアポイントメント
今井 由美子 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
感染病態制御ワクチンプロジェクト プロジェクトリーダー
河野 まおり 株式会社マンダム 製品評価研究所・安全性微生物評価室 グループリーダー
人的ネットワークが形成でき、専門の異なる分野の研究も大学教員からのアドバイスを得ながら進めることができました。
最先端の機器を使用できたことも研究の手助けとなり、また大学での地位を得ることで、研究を進めるうえでの信頼を得ることもできました。
今井氏 | 河野氏 |
②女性リーダー育成プログラム
加藤 頼子 サラヤ株式会社 商品開発本部バイオケミカル研究所
柏原エリアMDRG 課長補佐
市川 絵理 大阪大学大学院 工学研究科機械工学専攻 博士前期課程2年
企業の社員と学生がワークショップを重ねる中で、自身の強み・弱みを認識し、様々なバイアスに気づくことができました。
自分の意見を伝えること、相反する意見も取り入れること、個人の強みを最大限に生かしてチームとして成果を出そうとチームメンバーで試行錯誤しながら、インクルーシブリーダーシップという新たな概念を実践的に学ぶことができました。
チーム内でのフィードバックもあり、自身の課題を認識することができ、行動や考え方にも良い変化が得られました。
加藤氏 | 市川氏 |
③育休中キャリアアップ支援プログラム
バレンティン・シンディ 三洋化成工業株式会社 バイオ・メディカル事業本部研究部
診断薬研究グループ 副主任
受講した講義のテーマは、「工学的な技術を事業化する際に必要なビジネス戦略を考える」ことです。
講義内容はすぐに仕事に活かせるものであり、学生たちとの議論からは新鮮なアイデアもあり、刺激的な時間を過ごせました。
学内の一時預かり保育室に子供を預けることができ、授業に集中することができました。
育休中は育児や家事のことで頭がいっぱいでしたが、プログラムを受講することはリフレッシュの機会になり、キャリアを意識した復職の準備ができました。
バレンティン氏 |
④女性研究者をリーダーとする共同研究支援
安本 千晶 ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター
IAQ技術グループ
健康に対する空気・空間の価値の創出は新しい領域であるため、大阪大学とオープンイノベーションを推進し、外部の知を導入することとなりました。
充実した設備やノウハウに囲まれた環境で専門的な技術や知識を習得でき、また、世界基準の研究を実行するためのポイントや行動様式を学ぶことができ、大きな成果を得ました。先生方の研究に取り組む姿勢からも刺激を受けることができ、また、先生方と気軽に相談できる関係を築けたことは財産となりました。
専門性を身につけたことにより自信を持って世界の研究者と話せるようにもなり、共同研究を機に、女性研究者として大きくステップアップできました。
安本氏 |
5.閉会の挨拶
奈良 哲 大阪大学 理事(ダイバーシティ&インクルージョン担当)
本シンポジウムにご登壇いただいた皆様、事業を実施するにあたってご協力ご支援いただいた皆様へ、心から御礼申し上げます。今後も、様々な機関が連携して社会全体の意識を変え、社会全体で女性研究者を育てる機運を高めていくことが大切だと考えており、本事業の精神を引き継ぎ、なお一層女性研究者の育成に貢献していきたい、との決意が述べられ、盛会のうちに幕を閉じました。
奈良理事 |